入魂とは、材料に命を宿らせる使命。切断・研磨加工で産業を支える企業

取材日: 公開日:

株式会社新興製作所
電子部品・半導体部品・機械部品の精密研磨加工
  • 新卒採用
  • 中途採用
  • 切断・研磨加工で62年
  • 高専出身の取締役
  • 取引先から生の声が聞ける

創業62年の今、新部署を設立した理由

新興製作所は、セラミックや焼結金属、ガラス、カーボンなどといった材料を取引先から預かり、受託加工している会社です。

新興製作所の社章

「切る」「磨く」を軸に、取引先が求める形状や寸法、面粗さ、平面度といった品質を実現。品質だけでなく価格や納期も合わせた「需要の3要素」が企業の柱です。創業62年ですが、「切る=切断加工」「磨く=研磨加工」という精密加工の分野に進出してからは約50年となります。

切断加工のメインは、髪の毛よりも細いワイヤーにダイヤモンド砥粒が付いている工具(ダイヤモンドワイヤー)を用いて、材料を1度に数百~数千枚に切る「マルチスライス加工」です。ダイヤモンドワイヤーを用いた切断はすでに世界で使用されていましたが、2009年に新興製作所が構築した「量産体制」は世界に先駆けたものでした。

ダイヤモンドワイヤーによる加工の様子

久留米高専出身で、取締役兼営業開発部の部長である井手さんによると、「現在はどちらかと言うと、薄く切るよりも、固い材料を切れるかが求められています。次世代パワー半導体と呼ばれているSiC単結晶(炭化ケイ素単結晶)は、地球上で3番目に固い材料と言われるほどです」とのこと。変化する需要に対応すべく、これまで蓄積してきた様々な切断技術を展開しているのが新興製作所なのです。

研磨加工では、厚さが50μm(ミクロンもしくはマイクロメートル。1μm=0.001mm)と、大変薄い結晶材料を研磨できる技術を持っています。面粗さも、0.1nm(ナノメートル。1nm=0.000001mm)まで平坦にできる技術があり、鏡面加工が可能です。こちらもまた、取引先から求められる加工に62年間応えてきた新興製作所の賜物となる技術と言えます。

組織の品質マネジメントシステム(QMS)に関する要求事項を規定した国際規格と、組織の環境マネジメントシステム(EMS)に関する要求事項を規定した国際規格の認証を取得しています。
大阪府内のものづくり中小企業で、「高度な技術力」「高品質・低コスト・短納期」など、総合力が高く、市場で高い評価を得ている優秀な中小企業に対して送られる「大阪ものづくり優良企業賞」に選定されています。

しかし、新興製作所が加工した材料は、家電製品やスマートフォン・タブレット、自動車の内部部品として利用されることが多く、日常生活で直接目にすることは難しいです。仕事へのモチベーションに繋がりにくいのではと懸念する方もいるかもしれません。

ですが、津山高専出身で、営業開発部の主任である林さんは「例えば、今後伸びる産業であるEV車にはパワー半導体が利用されています。重要なパワー半導体の材料加工に携わることで、自分もその産業の成長に関わっているというイメージを持って仕事をしています」と話します。産業を確実に支える仕事をしている実感がそこにはありました。

取材をお引き受けいただいた井手さん(左)と林さん

ちなみに、営業開発部は2022年10月に新設された部署。「新しい技術は内部だけでは生まれにくい」と語る井手さんは、営業開発部の役割として「外部の企業などと密に情報共有をして、新しい技術を可能なら取り入れるよう動いています」と続けました。

また、井手さんが「新興製作所の宝は、津山工場と真庭工場(ともに岡山県)の底にしか眠っていない」と力強く話していたのは印象的です。「その宝を掘り起こすためには、新たな技術と、現場の作業員が持つ技能の両輪が必要」と考え、大阪の本社で現在の仕事に従事されています。様々なニーズに対応すべく、「切る」「磨く」の技術の幅を広げようと新設された営業開発部。大阪大学との共同研究もスタートしました。

大阪大学内の共同研究拠点にて

そんな新興製作所の社是は「入魂」。精密加工という新分野に進出した際、技術アドバイスをされていた大阪大学の津和秀夫教授からもらった言葉です。「精密加工は単純作業の繰り返しではあるが、加工によって『良品』にする、つまり、魂を宿らせることで生きた材料にするのが人間の使命だ」という思いが込められています。

さらに、社是ではないですが、常に清潔に保ち、自分自身が心身ともに育つ精神的な場として、工場を「生産道場」と名付けているのも、それが新興製作所の大事にしているスピリットだからです。

社内に飾られている社是「入魂」の文字

取引先の声を聞き、試験・評価・改善するやりがい

井手さんは、12年前に転職で新興製作所に入社しました。前職での技術開発の経験を生かして、技術開発を推進する責任者として仕事に従事。先ほどあった通り、営業開発部の仕事も担当しています。

転職の理由は「お客様への提案・お客様からのフィードバックがない部署に異動となったため」でした。前職では工具をつくる側だったので、工具を使う側である新興製作所はこれまでと異なる環境でしたが、「お客様へ加工について提案し、フィードバックをいただく」という、「お客様の生の声が聞ける」点を求めての転職だったのです。

工場内での業務の様子

しかし、当時の井手さんは36歳。奥様と3人のお子様(内1人は当時0歳)と生活していたこともあり、転職するべきか悩んだそうです。そんな中、同じ久留米高専出身でエンジニアだった奥様から「死ぬ前に後悔するような選択をしてはいけない」と背中を押され、転職を決断しました。最初の1年間は単身赴任でしたが、今後も新興製作所で仕事を続けたいということで、家族のみなさまも引っ越しされたそうです。

井手さんが感じるやりがいは、「お客様からの要求(仕様)に応えるべく、まず自分がその要求を正確に理解し、部材メーカーさん等と協力しながら実現すること」。加工が難しいとされるセラミック素材をダイヤモンドワイヤーで切断して研磨加工する工程を実現し、量産加工として体制を整えることができたときも、そのようなやりがいを強く感じる瞬間でした。「誰かの役に立つと実感できると、1番やりがいにつながる」と、井手さんは話します。

工場内での業務の様子

一方、電気・電子系の学生として太陽電池に関する研究を行っていた林さんは、新卒で新興製作所に入社。就活の際に、新興製作所が太陽電池の材料加工に携わっていることを知り、入社を決めたそうです。しかし、太陽電池の材料加工事業は2017年に撤退。それでもなお、林さんは新興製作所で働いています。

その理由として林さんは「実は、太陽電池の研究知識を生かすことって、そこまでなかったんです。入社直後、切断加工の技術向上のため、ワイヤーの細線化に取り組んだ際、試験して評価して改善するというサイクルを回していました。でも、そのサイクルって、高専のどの学科でも行う実験レポートで鍛えられていたんですよね。試験・評価・改善のサイクルを回すことに手ごたえを感じ、今でも働いているんです」と説明してもらいました。

工場内での業務の様子

現在は、量産ではなく、少量(スポット)の材料加工を担当しています。手順が既に決まっている量産と違い、スポットは工具の選定や加工条件などといった最初の段階から構築しないといけません。さまざまな試行錯誤を繰り返すところに、スポットの難しさがあるのです。取引先との距離も量産より近くなる場合が多いので、より密にやり取りする能力も求められます。

いろいろな装置・工具に触れる機会が多い仕事ですが、それはつまり「自分のできる選択肢が増える」ということ。自分で考えて作業できるところに、林さんは大きなやりがいや成長を感じているそうです。

工場内での業務の様子

「頼もしい」⇔「期待の人材」 上司・部下の関係性は?

専攻科まで進学し、7年間久留米高専に通っていた井手さんは、高専での経験が仕事に生かされているのでしょうか。「その間は寮生活でして、日常生活のみならず、様々な行事の運営をしていましたので、先輩・後輩とチームワークを築く力を身につけることができたかなと思います」と、現在の仕事に繋がっていることを教えてくれました。

その他にも、高専で行っていたドラフター(設計製図機械)を用いた機械図面の手書きは、取引先からの要求仕様を理解するのに役立っているとのこと。技術論文の書き方の基礎が鍛えられたことも仕事に役立っています。久留米高専の関西支部の同窓会に参加し、大先輩や後輩と話すことも、自分の人生勉強につながっているそうです。

工場内での業務の様子

久留米高専で経験した幅広い年齢層でのコミュニケーションが仕事で生きていることが伝わりますが、新興製作所での人間関係も気になるところです。

取締役であり、同じ営業開発部に所属している井手さんの存在について、林さんは「知識量がすごいので頼りになります。私は津山工場、井手さんは大阪の本社にいるので、直接会うのは週に2,3回ですが、何か疑問があれば携帯などですぐに相談します」と、「壁のない関係性」であることを教えてくれました。

工場内での業務の様子

一方、井手さんは林さんに対して「期待の人材です! あと、入社以降、津山工場や本社、国立研究開発法人物質・材料研究機構(茨城県)と、さまざまなところに行ってもらっていますが、嫌な顔せず、フットワーク軽く仕事をしているので、物怖じしない性格なのかなと思っています。営業開発部のメンバーに選んだのも、そういう理由です(笑)」とのこと。

「勤務地が変わることへの抵抗感のなさ」について、林さんは「出身は岡山県の南の方なのですが、津山高専という北の方で寮生活をしていたのが大きいと思います。実家から離れることに慣れていたので、勤務地にそこまでこだわりがなかったです。茨城県は結構離れてしまいしたけど(笑)」と、笑みを交えながら理由を語ってくれました。

大阪大学内の共同研究拠点で作業を行う林さん

共に高専出身であり、お互いの信頼関係が感じられる井手さんと林さん。最後に「高専や理工系出身の方は、どのような活躍が新興製作所でできるか」について伺いました。

林さん「高専での専攻とは違う仕事をしていますが、高専で学んだ知識が生かせるタイミングもあります。半導体の結晶構造から測定方法を検討するとかですね。それに、すべての高専で行われている実験レポートで培われた『データをまとめる能力』を最大限に生かせるのが新興製作所だと思います」

井手さん「新興製作所は受託加工の事業をしている企業ですので、加工技術を知らないといけませんし、外部の工具メーカーさんや学会などへ赴いて情報を収集する能力も必要です。そして、収集した情報を社内に発信し、自分で加工を行い、数値化してまとめて、お客様に報告することは、高専や理工系卒の方に向いていると思います。中小企業だからこそ、インプットとアウトプットの両立ができる現場ですよ」

取材者が感じた会社の印象

取材であった言葉「新興製作所の宝は、津山工場と真庭工場の底にしか眠っていない」——ここで単純に「宝がある」と表現しなかったところに驚きました。「その宝を掘り起こす」——つまり、うまく扱うことで宝を宝にできる。これこそまさに、社是の「入魂」ではないでしょうか。命を宿すための行動力・自身の鍛錬が随所に感じられる取材でした。

また、新興製作所では、業務に直結する資格に合格したら報奨金を付与する制度をスタート。中小企業としては珍しいと言われている企業型確定拠出年金も整備しています。「若い人が安心して入社できるよう、福利厚生をさらに充実させたい」と井手さんはお話しされていました。63年目以降も進化を続ける新興製作所で、自身の力を発揮してみませんか?

この記事をシェアしよう!